その12春の樹木・花の色

 「春三月」といいますが、日本列島は南北に長く地域によってはまだ寒い日が続くところがあります。花は寒さに耐えてこそきれいな花が咲くといいます。その寒さ(気温)が桜の開花予報にはとても重要な要素となるのです。
 一日の平均が5℃前後の日が 10 日ほど続くと開花スイッチが入ります(4℃以下が5日という説もある)。そこから、気温が0℃で 0.20 日、5℃で0.34 日、10℃で 0.59 日、15℃で1日、20℃で 1.66日という計算で、合計が 20 日すぎればいよいよ開花ということです。桜が一斉に咲くのはこのような作用があるからだといわれています。
 その年により、桜の開花が遅い、早いといいますが、京都の桜守、佐野藤右衛門さんは「桜はいつも同じ時期に咲く。人が早い、遅いと決めているだけ」といいました。人の尺で考えるか、桜の立場になって感じるか、大きな違いだと思います。
 皆さんの園でも、毎日気温を測って計算をすれば開花予報ができるのでおもしろいかもしれません。しかし、科学で予報できることは素晴らしいと思いますが、梅が咲き、桜を思い春の訪れを感じることをしないでただ計算をするだけでは、本来の桜の美しさを感じることはできないと思います。桜は寒さに耐えてこそ、人を感動させるまでのきれいな花を咲かせるのだと思います。
 春には、桜の他にもたくさんの樹木に花が咲きます。

1コブシ(モクレン科)

 この花は冬芽が特徴で、矢じりのような形をしています。空を突き刺すような冬芽がふわっと崩れて白い花が咲くと春の訪れを感じます。名前は、秋につく実の形、握りこぶしの形からきています。この実にも大きな特徴があり、実が乾燥して開くと真っ赤な種が紐でぶら下がります。鳥は赤い色が見えるので、これを食べて運んでもらうのです。

2シデコブシ(モクレン科)

 この花はコブシに似ていますが、花弁がコブシより多く、里山などに自生しています。最近は庭木に植えられることも多くなりました。

3モクレン・シモクレン(モクレン科)

 地域により異なりますが、卒園式の頃に咲くことがあり、花瓶などに生けられます。花弁が大きいので咲くときれいですが、落ち始めると、ぼたぼたと落ちます。シモクレンの花は紫色をしています。白い花のモクレンよりは少し遅れて咲きます。

4ハナズオウ(マメ科)

 紫色の小さい花がたくさん咲きます。秋には豆の房がぶら下がります。

5ミツマタ(ジンチョウゲ科)

 枝が3つに分かれているのでこの名前がつきました。コウゾと同様に和紙の材料になります。園庭に植えてあれば、卒園や進級の時期にこの花が咲くので、子どもたちに言葉を添えて伝えたいものです。

6ヤエヤマブキ(バラ科)

 この花は、太田道灌の「七重八重花は咲けども山吹の実の(蓑)ひとつだになきぞ悲しき」という歌の話で有名ですが、八重の花には実がつきません。一重花のヤマブキやシロヤマブキは花の後に黒い実がつきます。

7レンギョウ(モクセイ科)

 街中に多く植えてあるのはチョウセンレンギョウです。レンギョウは、チョウがたくさん連なって止まっていることが名前の由来です。

8マンサク(マンサク科)

 春の初めに「まず 咲 く」が、こ の花の名前の由来です。この花が咲けば「豊 年 満 作」になるともいわれています。

9サンシュユ(ミズキ科)

 宮崎県の民謡に「庭の山椒(さんしゅう)の木鳴る鈴かけて…」から始まる「ひえつき節」があります。昔から庭に植えられていた樹木だと思います。小さい黄色い花が小枝に咲き、秋には赤い実がつきます。春は黄色、秋に赤色、これには意味があるのです。

■花は誰のために咲いているのか

 ヤマブキ、レンギョウ、タンポポ、ナノハナ、マンサクは黄色い花、ハナズオウ、シモクレンは紫色、モクレン、サクラは白色です。花を咲かせるのは、人が見て春を感じるためではなく、早く種を作って次の世代へつなぐためです。そのためには、昆虫に花を早く見つけ、受粉してもらう必要があります。人と昆虫では見える色が違い、昆虫は紫外線を見ることができるのです。また、鳥に見てもらえるように赤い色をしているツバキやザクロの花の付け根はしっかりしていて、鳥につつかれても落ちることはありません。
 ところで、今は絶滅したネアンデルタール人は、埋葬の際に花を入れたようです。何万年も前から人は花を身近に感じ、季節や思いを伝えてきたのかもしれません。
 子どもたちにも、たくさんの花を摘んであげられる環境をつくりたいものです。

小泉造園代表/京都女子大学非常勤講師 小泉昭男