その10バイオミミクリー・1
保育士さんには、ケムシ、ムカデ、ゴキブリなど、昆虫が嫌いな方が意外と多いと思います。少し残念な気がします。でも、昆虫は私たち人類に大きな影響を与えています。バイオミミクリーをご存じでしょうか。バイオは「生物や生命」、ミミクリーは「まねる」という意味で、合わせて「生物の持てる力を見習う、生物から得た知識、技術革命」などと訳されています。これは、自然界の優れたデザイン機能を模倣し、人の生活に役立てる、そして、革新的な技術の正しさを生態系の物差しで測る、人間と自然とのあるべき関係を自然から学ぶ、という観点から生じています。
そこで2回にわたって、少し気持ち悪い、嫌い(苦手)な生きものなども含めて紹介します。少しでも好きになっていただけたらと思います。
1タマムシ
夏になると、神社や里山のエノキに群れているのを見かけることがあります。成虫はエノキの葉を食べます。太陽光線で羽がとてもきれいに輝きます。それを細工にしているのが、奈良の法隆寺が所蔵する飛鳥時代の仏教工芸品・玉虫厨子です。今の時代にこれだけのタマムシを集めるのは難しいともいわれています。この輝きは羽の外皮の外層膜構造によるもので、外皮には透明な膜が 20 層ほど重なっていて、光がこの層を通る時に鮮やかな光沢が生まれるのです。これをまねたものが CD の記録面です。塗装ではないので剥がれることはありません。ちなみに、カメの糞にセンチコガネの羽が入っているのを見たことがありますが、甲虫の羽は消化されずにそのままの色と形で出ていました。
2トンボ
日本には約 200 種類生息するといわれています。これは他国に比べて里山や湿地などが多いことや、田圃という環境が守っているからです。4枚の羽を使って高速で飛ぶのですが、そのスピードは時速70 ㎞ともいわれています。そのスピードの秘密は羽にあります。ホバリングができて薄くて丈夫な羽は、低速でも飛ぶことができ、表面上の凸凹を使って空気の渦を作ります。この仕組みを手軽な風力発電のプロぺラに利用して、少ない風から電力を産み出すことがめざされています。
3カ
夏に一番嫌がられる虫は、カかもしれません。アカイエカ、コガタアカイエカ、チカイエカが人から吸血します。アカイエカは飛びながら交尾をするので広い空間が必要で、チカイエカは止まって交尾をするのでゲージの中でも飼育が可能です(研究者の話ですが)。イエカは居場所に壁が必要ですが、ヤブカは戸外の
4スズメバチ
地面に巣を作るオオスズメバチ。夏の終わりから秋にかけて山に入る時は注意が必要です。街中の樹に大きな巣をぶら下げるのはキイロスズメバチです。攻撃性があるので、近寄ると先行部隊がやってきて、カチカチと音を鳴らします。コガタスズメバチは、軒下や樹木などにドッヂボールサイズの丸い巣を作ります。それほど攻撃性はありません。これほど、人に嫌われる昆虫はいません。しかし、金メダリスト・高橋尚子さん出演のCMで目にするスポーツ飲料VAAMは、この虫のアミノ酸化合物からできています。この成分には燃焼しにくい脂肪を燃やす作用があることがわかったのです。それだけではなく、運動能力をあげて疲労を抑える点でも注目されています。
5ヤママユガ(天蚕 )
この昆虫の繭から採った天然の絹糸は「天蚕糸」と呼ばれ、この絹糸で反物を織ると数百万円するといわれています。この昆虫は卵の中で幼虫になり、その後羽化直前まで8か月間眠ります。この休眠中には5種類のアミノ酸が組織されていることがわかり、ラットの実験では、肝ガン細胞を抑制したり、死滅させることがわかりました。この物質はヤママリンと名づけられ、抗ガン治療に新たな可能性が模索されています。
6ヤモリ
イモリ(井守)は水を守り、ヤモリ(家守)は家を守って家に来る害虫(といわれる虫)を食べてくれます。天井や窓ガラスの上を這うヤモリの足からは粘着性の物質が出ているわけではありません。足先を観ると複数のひび割れがあり、ラメラ構造と呼ごうもうばれるものです。この内部には数十万本もの剛毛が密生していて、その先端は数百もの枝毛に分かれ、さらにその先は皿状の構造になっています。この指の構造を模倣して、ゲッコーテープという粘着剤を使わない吸着素材の開発に成功しています。垂直な面を移動できるヤモリ型ロボットも開発されて、高層ビルなどの清掃や災害時の救助活動への利用が期待されています。