その8秋の七草

 春の七草は、お正月の薬膳として食べられるのでなじみ深いですが、秋の七草はそれほど知られていないのではないでしょうか。奈良時代に、山上憶良が万葉集で、「秋の野に咲きたる花を 指折およびをりかき数ふれば七種ななくさの花」「萩の花尾花葛花くずばな撫子の花 女郎花をみなへしまた藤袴朝貌ふぢはかまあさがおの花」と謳っています。少し前までは身近にあった植物だと思います。実は、今も身近に存在しています。自然は、こちらから近づかないと感じることはできません。そのきっかけになることが伝えられたら嬉しいです。

1オミナエシ

 漢字で女郎花と書きます(オトコエシ[男郎花]という植物も存在し、白い花でそれほど目立ちません)。黄色い花の集合体のこの花には、多くの昆虫がやって来ます。花の数が多いので、花粉も多くあるのです。花粉のにおいも特徴的です。ぜひ園庭に植えて、生きものが集う姿を感じてください。

2ススキ

 昔は萱場かやばという場所があり、里山では入会地いりあいち(村落共同体総有の土地)で管理して屋根の吹き替えなど村全体の作業に使われました。ススキの仲間によく似たオギがありますが、ススキは乾燥地に生え、放射状に広がります。一方、オギは湿地などに生えて根は横に伸びます。どちらも、若い穂を丸めてフクロウ作りの草遊びができます。園庭に植えるならススキでしょう。注意しなくてはならないのは、イネ科なので、葉で手を切ることがあります。イネ科の植物は枯れてもしおれることはありません。根元から切っても翌年には生えてきます。葉は焼いて、その灰を畑に入れると、ケイ酸が多く含まれるので苗がしっかり育ちます。ごみではありません。

3キキョウ

 残念ながら、今はほとんど野山では見かけられなくなり、庭先で観賞用として栽培されているのを見かける程度です。根っこに毒があります。漢方薬としても有名です。花はつぼみが風船のように膨らみ、ポンッと開きます。

4ナデシコ

 カワラナデシコ(学名)、ヤマトナデシコという名もあり、可憐な花です。決して目立つ花ではないのですが、「なでしこジャパン」(女子サッカー)で一時有名になりました。花がしぼんだ後に種がつくので、その種を持ち帰って植えたい花の1つです。

5フジバカマ

 渡りをするチョウ、アサギマダラの吸蜜きゅうみつ植物の1つです。大きめのプランターなどに植えると、秋にアサギマダラがやって来てくれることがあります。京都ではチョウマニアや保育園、学校などで植えて、アサギマダラ確認!の報告をよく聞きます。マーキグをして放し、観察することができます。こんな小さいチョウが1日 200 ㎞を移動した報告もあります。ぜひ、子どもたちに伝えたいものです。

フジバカマの花にやって来たアサギマダラ
6クズ

 マメ科の植物で繁殖力が強く、里山で樹木を覆うように生えています。ヤマフジも同じ生態です。祭りなどでフジのツルが使われなくなり、管理ができなくなったのが原因の1つとされています。クズは緑に被われるのが速く、一時、海外での緑化に使われましたが、今は侵略的外来種に指定されています。しかし花はとても綺麗で、葉も草花遊びができます。根は葛湯や葛切りに使われ、日本の伝統的な文化に一役かっています。冬には葉が落ちるので、茎はクリスマスリース作りなどにも使えます。

7ハギ

 この植物は、草ではなく樹木です。この樹木もマメ科なのでクズとよく似た花が咲きます。管理は簡単で、花が終わったら根元から切り落とせば、翌年にはたくさんの芽が出ます。切った枝も以前は生け垣ほがき てっぽうそでがき(穂垣ほがき鉄砲袖垣てっぽうそでがきなど)に使われました。枝は遊びにも使えます。キチョウの食草にもなります。花の蜜は吸いませんが、パタパタ飛んでいるキチョウは卵を産み落とすために訪れたものです。

 春の七草には「せりなずなごぎょうはこべら…」と覚えやすい歌のようなものがあるように、秋の七草にも呪文のようなものがあります。7種の植物の頭文字をつなげると、「オスキナフクハ」となります。しかし、植物の名前を覚えることが大事ではなく、植物を観察できる環境を整えること、子どもの遊びに使えること、他の生きものがかかわること、地域の環境を知ることが大事なのだと思います。園庭にこれらの植物を植えることをおすすめします。これらはすべて宿根草しゅっこんそうです。クズは少し問題がありますが、季節を感じる植物です。他の生きものがかかわる在来の植物を植えてほしいと思います。

小泉造園代表/京都女子大学非常勤講師 小泉昭男