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Report
2026.09.07
第3回全私保連青年会議・日保協青年部 合同研修会 開催報告
6月25日、静岡市・もくせい会館に於て、第3回全国私立保育連盟青年会議・日本保育協会青年部合同研修会が開催されました。当日は各地で悪天候が続く中、それをものともせず全国から140名以上が参集し、会場は熱気に包まれました。両団体の青年層が一堂に会するこの合同研修も第3回を数え、回を重ねるごとに参加者同士のつながりと学びの深度が増しています。全国各地から集まった仲間と顔を合わせ、ともに学ぶこの場そのものが、参加者にとっての大きな財産となっています。今年度も静岡を舞台に、両団体の若いリーダーたちが学びを深める充実した一日となりました。
今回の
研修テーマ
は
「“主体性” を問い直す保育へのまなざし─保育者の専門性と関係性から考える実践のこれから」
。講師に、洗足こども短期大学教授・井上眞理子氏をお迎えしました。
「主体性」という言葉は、現在の保育現場では頻繁に使われています。しかしその本質を十分に問い直してきたかと言えば、必ずしもそうとは言えません。今回の研修は、この問いに正面から向き合い、理論的な理解を深めながら、実践へいかに落とし込むかというところまで辿り着くことを目指して設計されました。また、大人が考える子どもの主体性と、子ども自身が体験している主体性の間には本質的なズレがあるという井上氏の指摘は、冒頭から参加者の思考に鋭く切り込むものでした。
井上氏はまず、時代の変化に応じて保育のあり方そのものを問い直し続けることの重要性を示したうえで、大人の学びの特性について丁寧に解説されました。
「大人の学びは豊かな経験を背景に持つため、情報を深く結びつけながら理解できるという強みがあ
ります。また、経験の蓄積は価値観や信念の醸成にもつながります。一方で、その経験が『学びのフィルター』として硬直化してしまうという負の側面も生み出します。スマートフォンによる情報のパーソナライズやエコーチェンバー現象が進む現代においては、このフィルターはいっそう強固になりやすい状況にあります。
フィルターが小さく硬くなるほど保育者自身が苦しくなり、閉塞感を感じるリスクも高まります。だからこそ、フィルターを意識的に柔軟に保ち続けることが、専門職としての成長の土台になります」と強調されました。
続いて、保育の質を考えるうえでの2つの視点が提示されました。1つ目は「保育の質とはそもそも何か」という問いで、子どもの主体性・人権・ウェルビーイングがその中心に位置づけられます。2つ目は「保育の質を支えるものは何か」という問いで、保育環境・カリキュラム・保育者の専門性・そして専門性を十分に発揮できる組織マネジメントがその要素として挙げられました。
この2軸を意識することで、「保育の質向上」という言葉が抽象論にとどまらず、具体的な実践課題として捉えられるようになります。保育者個人の専門性と、それを支える組織のあり方を同時に問い 直すことの重要性が明確に示された場面でした。また保育現場でよく耳にする「主体性を育てる」「主体性を引き出す」「子ども主体の保育」「子どもの主体性を尊重する」といった表現についても、井上氏は丁寧に問い直されました。これらの言葉は日常的に何気なく使われていますが、それぞれが異なるニュアンスと前提を持っており、言葉の意味を吟味せずに使い続けることには危うさが伴います。言葉にこだわり、その意味を問い直しながら実践と結びつけていくことの大切さを、改めて認識する機会となりました。
フィルターを柔軟に保ち続けるための実践的な方法として紹介されたのが、リフレクション(省察)の循環です。①自己と対峙してフィルターを見つめ直す、②他者と共有してフィルターを開示する、③ずれに気づく、④フィルターを修正・成長させる、という4つのステップを繰り返すことで、保育者は学びを深め続けることができます。井上氏は「対話とは、“私は”を主語に自己の主観・本音を伝え合うこと」と定義されました。このリフレクションが組織的に機能することによって、「学び合う組織」が育まれていきます。さらに、「考えながら実践する専門性(reflection in action)」と「経験を学びに変える専門性(reflection on action)」の両面を意識することが、保育者としての質の向上に欠かせないと述べられました。参加者それぞれが、自施設の対話文化やリフレクションのあり方を見つめ直す契機となったのではないでしょうか。
講演中の井上眞理子氏
後半のグループワークでは、「子どもの主体性が具体的にどのような姿として現れるか」「そのような姿を引き出すために、保育者に求められる専門性・力量とは何か」という2つの問いをもとに、まず個人で思考を深めたうえで、全体で対話する時間が設けられました。各テーブルでは立場や地域を越えた活発な意見交換が行われ、多様な現場の実践と視点が共有されました。
議論を通じて浮かび上がってきたのは、「子どもの主体性や自己決定は、他者や環境との関係においてのみ現れる」という関係論的な視点です。主体性を個人の内側にある固定的な特性として捉えるのではなく、子どもが世界とどのような関係性を結ぼうとしているかという動的なまなざしで捉え直すことが求められます。その子らしく世界とつながろうとする姿を丁寧に見取り、変容を含めてその姿を理解しようとする保育者のまなざし、そしてそのまなざしを同僚間で共有できる組織文化の重要性が改めて浮き彫りとなりました。
足元の悪い中、全国から集まってくれた140名以上の参加者の熱気は、保育現場の専門性向上への揺るぎない意欲の表れだと感じました。「主体性」という言葉を安易に使わず問い続けること、リフレクションの文化を組織に根づかせること──本研修で得た問いと気づきを、それぞれの現場での実践へとつなげていただければ幸いです。
全私保連青年会議と日保協青年部が手を携えて取り組むこの合同研修が、全国の「保育の質向上」に向けた大きなうねりとなっていくことを確信しています。次回の合同研修会への期待を胸に、充実した一日は幕を閉じました。
(伊藤悟/全私保連青年会議会長)
伊藤悟・全私保連青年会議会長
中西淳也・日保協青年部部長
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今回の研修テーマは「“主体性” を問い直す保育へのまなざし─保育者の専門性と関係性から考える実践のこれから」。講師に、洗足こども短期大学教授・井上眞理子氏をお迎えしました。
「主体性」という言葉は、現在の保育現場では頻繁に使われています。しかしその本質を十分に問い直してきたかと言えば、必ずしもそうとは言えません。今回の研修は、この問いに正面から向き合い、理論的な理解を深めながら、実践へいかに落とし込むかというところまで辿り着くことを目指して設計されました。また、大人が考える子どもの主体性と、子ども自身が体験している主体性の間には本質的なズレがあるという井上氏の指摘は、冒頭から参加者の思考に鋭く切り込むものでした。
井上氏はまず、時代の変化に応じて保育のあり方そのものを問い直し続けることの重要性を示したうえで、大人の学びの特性について丁寧に解説されました。
「大人の学びは豊かな経験を背景に持つため、情報を深く結びつけながら理解できるという強みがあ
ります。また、経験の蓄積は価値観や信念の醸成にもつながります。一方で、その経験が『学びのフィルター』として硬直化してしまうという負の側面も生み出します。スマートフォンによる情報のパーソナライズやエコーチェンバー現象が進む現代においては、このフィルターはいっそう強固になりやすい状況にあります。
フィルターが小さく硬くなるほど保育者自身が苦しくなり、閉塞感を感じるリスクも高まります。だからこそ、フィルターを意識的に柔軟に保ち続けることが、専門職としての成長の土台になります」と強調されました。
続いて、保育の質を考えるうえでの2つの視点が提示されました。1つ目は「保育の質とはそもそも何か」という問いで、子どもの主体性・人権・ウェルビーイングがその中心に位置づけられます。2つ目は「保育の質を支えるものは何か」という問いで、保育環境・カリキュラム・保育者の専門性・そして専門性を十分に発揮できる組織マネジメントがその要素として挙げられました。
この2軸を意識することで、「保育の質向上」という言葉が抽象論にとどまらず、具体的な実践課題として捉えられるようになります。保育者個人の専門性と、それを支える組織のあり方を同時に問い 直すことの重要性が明確に示された場面でした。また保育現場でよく耳にする「主体性を育てる」「主体性を引き出す」「子ども主体の保育」「子どもの主体性を尊重する」といった表現についても、井上氏は丁寧に問い直されました。これらの言葉は日常的に何気なく使われていますが、それぞれが異なるニュアンスと前提を持っており、言葉の意味を吟味せずに使い続けることには危うさが伴います。言葉にこだわり、その意味を問い直しながら実践と結びつけていくことの大切さを、改めて認識する機会となりました。
フィルターを柔軟に保ち続けるための実践的な方法として紹介されたのが、リフレクション(省察)の循環です。①自己と対峙してフィルターを見つめ直す、②他者と共有してフィルターを開示する、③ずれに気づく、④フィルターを修正・成長させる、という4つのステップを繰り返すことで、保育者は学びを深め続けることができます。井上氏は「対話とは、“私は”を主語に自己の主観・本音を伝え合うこと」と定義されました。このリフレクションが組織的に機能することによって、「学び合う組織」が育まれていきます。さらに、「考えながら実践する専門性(reflection in action)」と「経験を学びに変える専門性(reflection on action)」の両面を意識することが、保育者としての質の向上に欠かせないと述べられました。参加者それぞれが、自施設の対話文化やリフレクションのあり方を見つめ直す契機となったのではないでしょうか。
講演中の井上眞理子氏
後半のグループワークでは、「子どもの主体性が具体的にどのような姿として現れるか」「そのような姿を引き出すために、保育者に求められる専門性・力量とは何か」という2つの問いをもとに、まず個人で思考を深めたうえで、全体で対話する時間が設けられました。各テーブルでは立場や地域を越えた活発な意見交換が行われ、多様な現場の実践と視点が共有されました。
議論を通じて浮かび上がってきたのは、「子どもの主体性や自己決定は、他者や環境との関係においてのみ現れる」という関係論的な視点です。主体性を個人の内側にある固定的な特性として捉えるのではなく、子どもが世界とどのような関係性を結ぼうとしているかという動的なまなざしで捉え直すことが求められます。その子らしく世界とつながろうとする姿を丁寧に見取り、変容を含めてその姿を理解しようとする保育者のまなざし、そしてそのまなざしを同僚間で共有できる組織文化の重要性が改めて浮き彫りとなりました。
足元の悪い中、全国から集まってくれた140名以上の参加者の熱気は、保育現場の専門性向上への揺るぎない意欲の表れだと感じました。「主体性」という言葉を安易に使わず問い続けること、リフレクションの文化を組織に根づかせること──本研修で得た問いと気づきを、それぞれの現場での実践へとつなげていただければ幸いです。
全私保連青年会議と日保協青年部が手を携えて取り組むこの合同研修が、全国の「保育の質向上」に向けた大きなうねりとなっていくことを確信しています。次回の合同研修会への期待を胸に、充実した一日は幕を閉じました。
伊藤悟・全私保連青年会議会長
中西淳也・日保協青年部部長