公益社団法人 全国私立保育園連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第5回③

新しい発達の見方から見えてくるもの その(2)

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

わが子は将来〈育てる者〉になるのです そのことを考えていますか?

 さて、お母さんがお母さんらしくなるのには、子どもを育てる時間と経験が必要だ、そこにお母さんの発達があると述べてきました。今、お母さんが大変な思いをしているように、わが子もこの先30年もすれば、お母さんと同じような思いをすることになるのです。今の子育てをしながらお母さんが味わうプラス、マイナスの心の動きは、実は子どもが保育園で友だちや先生とのかかわりの中で味わうプラス、マイナスの心の動きとよく似ています。子どももまた、自分の思い通りにしたい気持ちと、思い通りにゆかない現実とに挟まれて悩みながら、しかし、何とか前を向いて生きていこうとしているのです。

 お母さんが日々大変と思って暮らしているように、子どもも本当は日々大変と思って生きているのです。そのことを考えると、お母さんには、単にできることが増えることが喜ばしい、早くいろいろなことをさせて発達を前に推し進めて、という考え方から早く脱却して、わが子がどんなプラス、マイナスの心を動かして成長しているかに目を向けていただきたいと思います。

 実際、身体が大きくなり、知的能力がしっかり身についたとしても、対人関係を潜り抜けていくための心の育ちがなければ、一人前になれませんし、ましてや30年後に親になった時に、親らしく子育てに臨む大人にはなれません。今は学力、学力と目に見える力をつけることに国を挙げて奔走しているように見えますが、しかし、わが国の教育は、能力の高い人間はつくりだせても、一人前の心をもった人間をつくることには失敗しています。失敗する理由は、主には学校教育にありますが、家庭の子育てや保育のあり方に、子どもの心を育てるという視点が十分ではないことにも理由があると私は考えています。

 従来の発達の見方は子どものプラス、マイナスの心の育ちを視野に含むものではありませんでした。しかし、「子どもは育てられて育つ」という観点に立つと、心の育ちが大事なものとして浮上してくるはずです。お母さんは子育てをする中で、「今になって親のありがたみがわかる」という思いになっていると思いますが、子どももいずれ親になった時に、同じことをいうようになるのでしょう。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。

第6回は2月上旬に更新予定です。