公益社団法人 全国私立保育園連盟

保育

「お互いさま」の心の育ちも大事です
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

「お互いさま」の素地は幼児期に育まれます

 一人前の大人になるということは、単に自己主張ができるようになるだけでは不十分です。自分の考えをはっきり主張することは大事ですが、他方で、相手の主張にも耳を傾け、時には自分を貫き、時には相手の主張を尊重して譲ることも、大人の対人関係の中では大事になってきます。自分がまわりから尊重されたいと思えば、自分もまわりを尊重することをわきまえなければなりません。相手に譲ってもらえば、それに感謝し、自分が譲ってあげれば相手から感謝されるというように、そこに「お互いさま」があってこそ、一人前の大人の対人関係といえるでしょう。

 他を顧みない一方的な自己主張は、独り善がりのものにすぎません。「相手を尊重する─ 相手から尊重される」「自己主張する─ 相手の自己主張を聞く」等々、私たち大人の対人関係は、それぞれがかけがえのない自分だけの世界をもちながら、しかし、ともに生きていくためには「お互いさま」がわかって、それに沿った振る舞いができなければなりません。自由と権利の主張が義務と責任を果たすこととセットになっているのも同じことです。

 子どもをそのような一人前の大人にするためには、単に学力をはじめとする様々な力を身につけさせればよいというわけにはいきません。自己肯定感と信頼感を基盤に、子どもの心の中に「お互いさま」がわかる素地がつくられなければならないのです。そのためには、2歳前後からの自己主張の経験と、3歳頃からのトラブルの経験や協働の経験、そして、それを通して「ごめんね」「いいよ」が素直にいえるようになることが必要なのです。

 「お互いさま」の心の育ちは「ごめんなさい」や「ありがとう」を無理にいわせようとしたり、「相手を思いやりなさい」と強くいって、いうことを聞かせたりすることで育まれるものではないことを、お母さん方にもわかっていただきたいと思います。

第14回は10月上旬に更新予定です。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。