公益社団法人 全国私立保育園連盟

保育

自己主張は大事ですが…
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

1歳半からの自己主張と友だち関係

 子どもと大人の関係では、子どもの自己主張は大人がそれを受け入れるか、抑えるかによって、そこでの経験がどのように子どもの心に描き込まれていくかが決まりますが、保育の場で同じ年頃の子どもどうしの関係になると、お互いに自己主張をストレートにぶつけ合うので、最初は衝突が頻繁に起きることになります。噛みついたり、他児が使っているものを取ったり、他児が作ったものを壊したりといった、大人から見た負の行為も、お互いの自己主張のぶつかった結果であることがほとんどです。

 そのような子どもどうしの思いと思いのぶつかり合いは、そのまま見守っているだけだと、結局は力の強い子の思いがいつも通るということになりかねません。そうならないためには、保育者があいだに入って、それぞれの子どもにはそれぞれの思いがあることを繰り返し伝え、どうすればよかったかを子どもにも考えてもらうようにもっていくという対応が大事になってきます。つまり、衝突がいけないのではなく、それぞれに違う思いがあるから衝突するのだということにまず子どもどうしが気づき、そこから仲よく遊ぶ(仲よく生活する)ためにはどうしたらよかったかを自分で考えるようにもっていくことが必要になります。

 こうして、しだいに「ケンカもするけど仲よしだ」というように、相手の存在を大事に思う気持ちが育っていくのです。

 家庭で何でも「いいよ、いいよ」で育ってきた子どもは、集団の場でも最初は全部自分の思いを通そうとするので衝突が絶えませんが、しだいに相手にも思いがあることがわかってくると、自己主張の仕方を微妙に変化させていきます。そこに、お母さんとは異なる集団生活での友だち関係のもつ意義があるのでしょう。

 時に自分の思いを相手に譲ると、相手が喜んで「ありがとう」といってくれ、それが自分にも嬉しいという経験や、その逆に、相手に譲ってもらって嬉しい気持ちを「ありがとう」と返すと、相手がそれを喜んでくれるというような、双方向の経験がしだいにできるようになってきます。

 ここに自分の自己主張と相手の自己主張にどう折り合いをつけるかという、人間として生きていくうえに欠かせない経験がしっかり根を下ろしていくのです。

第13回は9月上旬に更新予定です。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。