公益社団法人 全国私立保育園連盟

保育

「褒めて育てよ」といわれていますが…
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

真心のこもらない「褒める」にならないために

 お母さんや保育者が子どもを動かすための道具として「褒める」を利用するようになると、「すごいね」「よかったね」「いいのができたね」「素晴らしいね」といった褒め言葉が、しだいに「引き出し言葉」に転じていきます。「引き出し言葉」というのは、お母さんの本当に「嬉しい!」「よかった!」「すごい!」という真心のこもらない平板な褒め言葉のことです。

 「よくできたね」「素敵だね」と、外見は褒めているように見えるけれども、本心はそれほど肯定的に見ているわけではなく、これをした時にはこの言葉をと、ルーティン化した言葉のことです。それはもはや本来の「褒める」からかけ離れてしまった言葉ですが、しかしお母さんは褒めているのだと思い込みやすいのです。「ちゃんと褒めているのに、嬉しそうにしないわね」とお母さんが思うのは、褒める時の言葉がお母さんの真心から生まれていないこと、引き出し言葉になっていることを子どもが敏感に感じとっているからでしょう。

 そしてもう一つ。多くの場合、「褒める」は子どもの行為の結果に向けられます。上手にお母さんを描いてくれたから褒める、かっこいい製作物を作ったから褒める、お手伝いをしてくれたから褒めるなど、お母さんの願った行為の結果を褒めるのが普通です。それがお母さんの喜びを伴った「褒める」である時に、子どもはその結果が嬉しい以上に、自分が認められたことが嬉しいのですが、そこで本当に大事なのは、行為の結果ではなく、それに取り組もうとした意欲や姿勢です。

 それを嬉しいこととして褒めることがもっとあってもよいのではないでしょうか。つまり、褒めるが結果に向かうのではなく、子どもの心の動きに向かうようになると、きっと「引き出し言葉」は消えて、子どもは幸せに近づくことができるでしょう。

第12回は8月上旬に更新予定です。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。