公益社団法人 全国私立保育園連盟

保育

子どもを「叱る」ことは難しい
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

優しい母として生き残る─ 行為を叱って存在を否定しない

 子どもはお母さんに強く叱られると、お母さんは自分を嫌いになった、自分の存在を否定したと受けとって、自分の行為がいけなかったから叱られたのだとすぐには考えません。それが先に述べた反抗的な言葉をぶつけてきたり、小さく縮こまったりすることにつながるのですが、それは自分の存在が否定されることへの子どもなりの抵抗の表れと考えることができます。

 ですから、ここで大事なのは、まずはお母さんが叱った後に怒りを鎮め、「お母さんが叱ったのは、あなたのした行為や言動があまりにひどかったからで、あなたの存在自体を否定したのではない。つまり、あなたを嫌いになったわけではない」ということを、どのようにうまく子どもに伝えるかです。怒りがエスカレートしやすいのは、子どもの反抗的な態度が許せないと思うからですが、しかしその態度は子どもが自分を守ろうとしてとっているものなのだとわきまえることができれば、一呼吸置くことができ、自分も小さかった時、こういう態度をとっていたにちがいないなどと思ったりして、怒りが鎮まる方向に向かうのではないでしょうか。

 イギリスの小児科医で、精神分析家でもあったウィニコットは、母親の子育てについて述べる中で、「母は叱ってもよいが、怒り狂ってはならない。叱っても、最後は、優しい母として生き残らならなければならない」といっています。まさにその通りです。

 子どものお母さんへの信頼感と自分の自己肯定感は、お母さんが優しいと思うからこそ生まれてくるものです。それがお母さんの怒りを伴った強い叱る行為や態度に出会うと、お母さんは優しいというイメージが揺らぎ、そのためにお母さんへの信頼感と自分の自己肯定感が揺らぎます。その揺らいだ信頼感と自己肯定感が修復されるためには、お母さんが再び優しい母として子どもの前に立つ必要がある、というのがウィニコットのいいたいことなのです。

 ですから、子どもの反抗的な態度を自分の存在が脅かされた結果だと考え、「叱ったのはあなたのしたことがいけなかったからで、あなたの存在を否定したのではない。
お母さんはあなたが大好きなの。いつも心配しているのよ」と、叱った後をしっかりフォローすることができれば、自分がこんないけないことをしても、お母さんはやっぱり優しいお母さんだということがわかり、信頼感と自己肯定感が修復されて、自分がいけなかったことを自分で認めることができるようになってきます。

 お母さんのその気持ちは、必ずしも言葉で伝えなくても、黙って抱きしめてあげたり、さりげなくおやつを一緒に食べたりして表現することもできるのではないでしょうか。

第11回は7月上旬に更新予定です。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。