公益社団法人 全国私立保育園連盟

あの日を忘れない 東日本大震災

福島県南相馬市の子どもたちの今

東日本大震災・福島第一原発事故後2年9か月
◆福島県南相馬市の子どもたちの今◆

遠藤美保子●福島県南相馬市原町聖愛保育園園長

【保育通信No.704/2013年12月号】

「これは放射性物質がついていないから、触ってもいいの?」と、5歳児が顔を上げて、傍にいた先生に確認しながらそっと手をのばし、鳥の羽根を拾い上げました。
地面に落ちているのを見つけて、「きれい」といいながら見ていたので、担任が「持って帰ってもいいよ」と声をかけたのです。
今夏、年長児が招かれて、2泊3日のお泊り会を軽井沢で行った時のことでした。
野外での遊びが震災後はまったくできていなかったので、軽井沢ではきっと子どもたちは解放されて、元気に遊びまわるだろうと期待をして出かけました。
しかし、実際に行ってみると、森の中の道を歩いても、まわりの葉っぱや木の実、虫などには目もくれず、前の人について歩くだけ、川に入っても、遊べずにすぐに上かってしまうなど、震災前に見ていた、嬉々として遊ぶ子どもの姿とは違っていました。2年間の空白の時間の重さを感じました。

また園で、今年7月に新しくつくり直した砂場をオープンする日に、3歳児が、「今日は、本当にお砂に触ってもいい日なの?」と先生に尋ねました。
今まで「触っちやダメ」といわれ続けてきて、生まれてからこの時まで砂遊びをしたことがなく、園でも、震災からすっと砂場を使っていなかったのです。

震災直後、半年間の休園の後、保育園再開に先駆けて、今後の保育の進め方について職員で話し合いました。今まで当たり前にしていた園庭での遊び(砂場やどろんこ)、里山や川、海に出かけて遊ぶ園外保育などができないので、保育の方針を変更せざるをえなくなったからです。
話し合いは、何からどのように話したらいいのかわからず、意見もなく時間が過ぎていきました。「また、次回に」と、意見を持ち寄ることにして解散することが繰り返され、何度目かの話し合いの時のことでした。
「これからどのようにできるかわからないが、これまでのように“自然”をテーマにして保育をしたい」という意見が出され、とにかく動き出そうという気持ちで決めました。
この時点ではまだ、放射能に汚染された現実を正しく理解できずに、微かな希望を抱いていました。しかし、汚染の実態がこの先何年も続くと理解した時に、未来を断たれた失望感が襲いました。

原町聖愛保育園は、東京電力福島第一原子力発電所から、24.5kinに位置しています。園庭と園舎内外の除染を行い、2011年10月11日に自園での保育を再開しました。
この時に、さまざまな約束を決めました。
●園庭に出る時はマスクをする(2012年8月まで)。
●園庭遊びの時間は30分。
●園庭の草花や虫、砂や石には触らない。
●決められた場所で遊ぶ。
●入室の際は靴底の土を削ぎ落とし、衣服の塵を刷毛で払う。
●室内履きに換えたら、粘着シートを踏んで埃を取る。
などです。
子どもたちはこの地で生活し、成長しますから、子どもの時から自分のできることを守って実行することが身につけられるとも思いました。子どもたちは、先生が注意をしなくても約束を守っています。

しかし一方では、制限が多くなって子どもの体験する機会を奪い、心を束縛しているのではないだろうかと、常に疑問がつきまといます。
福島の子どもの体力低下がいわれていますが、「放射性物質がついていない?」「ホントに触っていいの?」と、何をするにも、見えないものへの恐怖や規制を感じている子どもの心には、どのような影響があるのだろうと、体力同様、それ以上に心配なことです。
放射能から子どもを守りながら、健やかな育ちを支えていくにはどうすればよいのか。積極的な考えと取り組みが必要であると強く思わされ、暗中模索をしているところです。

当園は、近くに県立公園の里山があり、1年を通して出かけていました。震災後2年半が過ぎた今でも、震災前に遊んでいた場所は、放射線量が2013年7月で0.47~0.63μSv/h、場所によっては1μSv/h(震災前は0.04~0.05μSv/h)を超えるところもあります。
放射性物質の半減期は、セシウム134は2年、137は30年ですから、1~2年後に少し下がったとしても、その後はずっとこのまま変わらない状態が続きます。
「除染をして、もとのようになったでしょ?!」
「放射能って、まだ終わっていなかったの?」
と、いわれることがあり、私たちはとても悔しい思いをしています。
除染は遅々として進まない中で、健康被害を心配しながら生活をせざるをえない苦悩や、放射能から子どもを守ることのむずかしさにもっと関心をもってほしいと願っています。

今ここに住んでいる人たちは、安心して住んでいるわけではありません。今年度の在園児の家庭食事調査結果では、水はペットボトル使用が70%弱、野菜は県外産使用が50%強でした。
表面的には通常の生活を取り戻したようでも、その内面は葛藤の連続です。
8月末、年長児の園外保育(放射線の心配がない場所ヘバスで約2時間)の参加の有無を保護者に尋ねた時、不参加と応えた保護者がいました。[今になって?]と思いましたが、親の思いを子ども自身も感じているようでしたので、私たちは受けとめて、参加させませんでした。
みな、それぞれ厳しい現実を受け入れつつ、迷いながらも前に進みたいと思っているのです。
全国の皆様のご支援と励ましに、心から感謝申し上げます。