公益社団法人 全国私立保育園連盟

あの日を忘れない 東日本大震災

放射能被害を受けて園はどう対処したか…茨城県守谷市

Reportage No.9ルポ*東日本大震災・被災地の保育園その6
放射能被害を受けて園はどう対処したか
…茨城県守谷市・まつやま保育園

【保育通信No.702/2013年10月号】

 あの東日本大震災とその後に起こった福島第一原発事故の放射能被害に見舞われてから今回の取材時(平成25年5月16日)に至るまで、2年2か月ほどが経っていますが、茨城県守谷市という比較的都心に近い通勤圏内(つくばエクスプレスで40分程)の保育園でも被害が発生しています。
 そこで今回は、子どもたち、保護者、保育園の皆がこの未体験の状況にどう対応していったのか、報告いたします。


まつやま保育園の園舎

■それまでのまつやま保育園

 つくばエクスプレスの守谷駅で関東鉄道常総線に乗り換え、南守谷駅を降りて、元々ここに住んでいるらしい雰囲気のお宅と畑や新興住宅地とが、モザイクのように混在し、樹木があちこちに茂り始めている道路を数分歩いて行くと、平屋の建物と外観が円錐形の屋根を直角に切り出したような形の建物が見えてきました。まつやま保育園に到着です。
 玄関から入ると、職員室からは、広々としたウッドデッキと、月曜から金曜日まで園庭開放で遊びが盛り上がりそうなすべり台のある大きな築山、どろんこ遊びが思いっきり楽しめそうな園庭が見え、園児と同じランチ(予約必要)が食べられるログハウス風の小ぶりの建物が見渡せます。
 園の特徴として、土と水と太陽にたわむれ、自然の恵みを体全体で味わうことを第一に挙げるほど、園児たちもどろんこ遊びや裸足保育が自然になじんでいる保育園です。

■ホットスポット・一通の手紙

 今回の地震発生から福島第一原子力発電所の炉心溶融事故により放出された放射性物質で発電所周辺が汚染されたわけですが、その後周辺地域より高い汚染レベルを示す地域があることがわかってきたのでした。いわゆるホットスポットと呼ばれる地域が、発電所より離れた飛び地に現れたのでした。
 茨城県守谷市も残念なことにこのホットスポット地域に含まれ、まつやま保育園もその中にありました。5月に入り、守谷市から放射線の測定値が公表されるようになると、園には保護者から要望が寄せられるようになりました。
 国からの情報提供が非常に少ないことに疑問を感じていた松山岩夫園長先生は、早くから情報収集を行い、保護者などからの要望や相談に耳を傾けながら、独自に放射線測定器を購入し、園庭と建物周辺の測定を始めました。
 平行して、市内の施設長会議で、給食材料の放射性物質検査と対応策を決定し、各園との連携を進め、5月中に市も食材検査の開始決定をしています。


除染が完了した大きな築山のある園庭

■園としての決断・除染作業へ

 松山園長先生は、保護者対応と守谷市との折衝、市内各園と連携を重ねるうちに、一つの決断を下しました。それは、他園に先んじて園庭の除染を独自にでも行うこと、給食食材の地産地消の中止です。
 施設長会には申し訳ないと思いながらも、一刻も早く対応策をとりたいという思いだったそうです。
 そして5月25日、資料と要望書を守谷市に提出しました。
 当面、除染が終わるまで外遊びを自粛、裸足保育も中止し、手洗いとうがいを励行しました。
 園庭の表土を削り取ることと砂場の砂の入れ替えを実施したところ、のちに表土の確保と工事に必要な重機、オペレーターの費用を市が協力するとの申し出があったそうです。
 6月8日、市による放射線測定がありました。5月24日時点で、地表面0㎝で0・365マイクロシーベルト/時間、地表面50㎝で0・395マイクロシーベルト/時間だったものが、それぞれ0・126マイクロシーベルト/時間、0・151マイクロシーベルト/時間に低下したので、園長はじめ職員一同安堵したそうですが、これがきっかけとなって除染が守谷市全体に波及していったそうです。


福島第一原発から漏れた放射能の広がり
http://www.flickr.com/photos/nomachishinri/5715718091/

■これからの子どもたちや地域のことなど    

 「除染作業を素早く行ったことにより、保護者との信頼関係が得られた」と話される松山園長先生ですが、散歩先の公園の線量測定の値によって対応を考えたり、子どもたちが製作に使う落ち葉や木の実は事前に水洗いをしているそうです。
 現在も園内外の数か所を毎日定点観測し、掲示を続け、食材の調達についても依然、配慮しているそうです。しかし、「安全性が確認されれば、また地産地消に戻して、地元の美味しい野菜やお米を取り入れたい」とおっしゃっていました。
 子どもたちと一緒に遊び、給食を楽しく食べる姿に救われ、今はほぼ普段通りの園生活を送っていることがなによりだそうです。


お話を伺った松山岩夫園長先生
 

■おわりに

 今回、松山園長先生にお話を伺った中で、『「正しく怖がる」ことです』という言葉にぶつかりました。
 そういえばと思い、以前の原発関連記事をひっくり返してみたのですが、原発問題に関して研究者の方が「正しく恐れよ」という発言をされていました。そこで、ちょっとネットで調べたのですが、正しくは、
 「正当にこわがるのは、なかなかむずかしい」
 大正時代の物理学者であり、随筆家の寺田寅彦氏の言葉として紹介されています。
 怖がらなくても怖がりすぎても、「正しく怖がる」ことはなかなかどころか、相当にむずかしいことだと改めて思いました。
 現状、放射線については、保護者、園関係者も一応落ち着きを見せているそうですが、不安感が消えたわけではなく、そうならざるを得ない背景には、放射線の影響がまだよくわかっていないから、政府の示した数値が不信感を生み、それが子を思う親の「大丈夫なのだろうか」という疑問につながり、なるべくなら低いほうがいいという、数値が独り歩きしていくことになり、また不安感を煽る悪循環になっています。
 放射線やそのリスクについて正しい知識が広まり、心の被害が少なくなることも重要な気がしました。
 最後に、取材にご協力いただいた松山園長先生はじめ、まつやま保育園の皆様に感謝いたします。

(富岡孝幸/全私保連広報部)


緑の日陰が心地よい砂場。奥にログハウス風の建物がある